日産リーフLOVECARS!試乗会。
電気自動車(EV)は三菱i-MiEV、トヨタ車体コムス、チョロQと
かなりの数を乗ってきている上に、トヨタ車体のコムスは
デリバリーバージョンを所有したこともあったので
果たして日産リーフはそれらに比べてどれほどの進化をしたのか
というところが興味の対象であった。
リーフの車体は数々のメディアで、もう何度も紹介されているが
実際に目のあたりにすると意外なほど大きいことに驚く。
完全にVWゴルフのサイズ。
もっと驚いたのはインバーターのカバー。
エンジンのヘッドカバーに似た造形は狙ったではないらしいが
「エンジンあるじゃん」と言ってみると周囲は笑いながら
突っ込みを入れてくれた。
内装は触れてみると意外と手触りがいい。
同じクラスの輸入車と遜色ないほどで
私の乗るボルボS40と比べると
圧倒的にリーフのほうが高級であるといえる。
これで補助金適用時の価格が299万円というのは
かなり戦略的といえるのではないか。
試乗は同じ日産のティーダと比較して行われた。
まずティーダに乗り、同じコースをリーフで走る。
この比較、まったくお話にならなかった。
大きさが似ているだけでまったくの別のクルマ。
加速だけで考えてもスカイラインの2.5より体感的に早いし
回生の入ったブレーキは効きもいい。
ゼロ発進でのクリープの入り方も悪くない。
電気自動車としてだけではなく
総じて299万のクルマとしての価値は持っていると思う。
実際、ティーダが悪いわけではなくリーフが良すぎるのだ。
比較対象としては同じ価格帯のクルマを持ってきたほうが
もっとリーフの良さが判ったのではないか、とも思う。
試乗前の説明では
日産の全ディーラーに200Vの普通充電設備、
200店舗に急速充電器を
リーフの発売前までに設置するということなので
電欠による心配も、昼間であれば問題なさそうな気もする。
夜間や過疎地の電欠対策がどうなるのかということは
これからの議論になるということだ。
・・・なんてことは
わざわざ僕が書くことも無いとは思うのですが
乗ってきて以上はクルマのことは
書いておかないといけないと思うので
とりあえず書いておきました。
しかし今回の試乗会では
リーフがどんな出来のクルマなのか
というよりもむしろ
日産はリーフやEVに
どれぐらい本気で取り組んでいるのか
ということのほうが僕の興味の対象でした。
最初から量産体制で行くと発表している日産が作るのだから
クルマに特に問題なんてある分けないのですから。
EVで僕が一番に気にしていることは家庭での充電について。
EVの議論をするときに
必ず話題になるのは急速充電器。
これには大電流を高圧で流すために
法律的な安全対策が
山のように詰め込まれている。
だから理論上安全でないわけがない。
しかし300万円もするような急速充電器なんて
実際にEVが普及したらいつも誰かが使っていて
必要なときに自分が使えない代物。
だからEVを普及させるための宣伝費
またはただの安心料だと思っています。
しかし、家庭用充電には
なかなかコストはかけられない。
それはクルマの装備品になってしまうからです。
だからこそ家庭用充電の考え方がEVに対しての
本気度のバロメーターだと思っています。
なぜ家庭充電がバロメーターか?
充電は給油と同じだからです。
一般的に給油の最中に、
ドライバーでも店員さんでもいいのですが
その場から人が離れることはありません。
しかし、充電は必ずといっていいほど
その場から人が離れるのです。
人がまったく監視していない状態でヘアドライアが2台
ターボモードで動いているよりも
大きな電気が流れる。
それをクルマ単体の安全装置だけで
何とかしようということ
これはいささか危険であると、
それこそハイパーミニの時代から
考えていたのです。
電気の事故は
感電ばかりだと思っているあなた、
それは間違った認識です。
国土交通省や経済産業省など
電気に関する省庁に報告される事例のなかで
電気の事故の多くは
火災も含まれるのです。
充電ケーブルが長いからといって
とぐろを巻いた状態にして充電を開始する。
新品のときは問題が無いですが、
5年や10年を経過したケーブルでは
ケーブルの被覆が劣化し
硬化して薄くなり熱を伝えやすくなる。
まっすぐな状態であれば放熱しますが
とぐろを巻いている状態では
放熱できずに発火点まで温度上昇する。
また、とぐろを巻いている状態であれば
コイルと同じ形になるので電磁力が発生。
力は作用するものがなければ熱に変換されるので
発火点までの温度上昇を加速することにもなります。
これは特別な電気知識でもなんでもなく
一般的な中学や高校の物理の授業で教える
フレミングの右手の法則、左手の法則が基礎原理。
無人状態で電気を流すという危険性は
こういうところに現れる
いわばヒューマンエラー。
こういったヒューマンエラーを
いかに少なく出来るかが
EVの取り組み方での本気度ではないか
と考えるのです。
三菱i-MiEVでは、クルマはいいのに
家庭充電用の諸々について
あまりにずさんで
泣きそうになったものです。
(過去ログ参照のこと)
日産はどうなのか。
リーフに話を戻すと、この充電ケーブルに
使われているケーブル素材が
三菱i-MiEVまでのEVに使われていたVCTというものから
より熱や劣化に強い2PNCTというタイプになっています。
各ケーブル素材の詳細は
リンク先のPDFなどを見ていただくとして
コストとして2PNCTはVCTの
約3倍程度となってしまいますが
安全性は飛躍的に向上します。
これがリーフの充電ケーブル。
コストをかけてでも既存の製品よりも
高い安全性を確保したこのケーブル素材には
素直に賞賛できます。
そしてもうひとつの評価ポイントは
ケーブルについている箱状の部分。
これが素晴らしい安全装置なのです。
ちょっと買い物に、3分で戻るからなど
車体からケーブルをはずしても
家側のコンセントから抜かずに
出かけてしまうケースが
無いとは言えません。
クルマとケーブルをつなぐコネクタ部分は
かなり厳密に作られているので
ちょっとやそっとでは
壊れるようなことは無いですが
ケーブルはそうではありません。
駆動輪でケーブルを踏んでしまったりしたら
瞬く間に被覆が破けて
感電、火災などということがありえます。
そういった場合、安全装置がなければ
電気はコネクタ部分まで流れてしまいますが
この安全装置は
クルマからコネクタがはずされた場合に
瞬時に安全装置から先の電気を遮断するのです。
また、ケーブルに漏電のトラブルが出た場合にも
同様に作動する。
この安全装置の存在はクルマ本体で言えば
2点式シートベルトと
3点式シートベルト+エアバッグに
ABS、ESP付くらいの大きな違いがあります。
今回、お話を伺った中でもっと感心したのは
こういった安全装置を他社にも装着するようにと
日産が経済産業省に働きかけているという部分。
プラグインハイブリッドなど
EV以外にもコンセントから充電するクルマは
もっと増えてきます。
こういった製品の黎明期に
事故を起こさないようにすることは
リーディングカンパニーにとっては絶対に不可欠。
ちなみにルノーのEVにも
基本的に同じ充電ケーブルが採用されているようです。
それはすでにあちこちで報道されている
パリのモーターショーの写真でも明らかです。
こういった部分からも日産の本気具合がうかがい知れます。
日産の本気はしかし
こんなものではなかったのです。
充電ケーブルや安全装置などは
自社で開発すればすむことですが
他社や省庁を完全に巻き込んで
仕様策定しなければならないものを
日産はひとつ、成し遂げていたのです。
それは、壁につけるコンセントの仕様。
いくら日産が莫大なコストをかけようが
電気部材メーカーと経済産業省が首を縦に振らなければ
ぜったいに作れないものです。
ましてや部材メーカーのトップ企業はパナソニック電工。
トヨタと提携関係にあるパナソニックが
日産だけのためにこれを作るわけがない。
ということは日産が標準仕様として経済産業省に
採用させたということなのです。
i-MiEVまでの200Vコンセントは
抜け落ち防止のために産業機器などに使われる
ねじ込みタイプの大型コンセントでした。
(過去ログ参照のこと)
このタイプは頻繁な抜き差しを想定しておらず
抜き差しの耐用回数はせいぜい200回程度。
毎日抜き差ししていたら半年で終わりです。
その上、抜き差しねじ込みが非常に固い。
不慣れな女性だといやになるほどです。
リーフ以降に採用されるコンセントは
ねじ込みをせずとも抜き差しができるうえに
抜け落ち防止が施される優れたタイプです。
耐用回数はクルマ側と同じ1万回仕様!
三菱でもi-MiEV用に変換プラグを出すそうです。
(なんで三菱が発表しないのか疑問)
未使用時には雨滴が入らないように蓋まで閉まるのがポイント。
このコンセントの詳細はパナソニック電工のサイトに詳しく載っています。
これは僕の主観ですが、
日産と三菱のEVの取り組み方の違いっていうのは
やる気でやった、出来るからやったの違いではないでしょうか。
5万台やる、と宣言してしまった日産はやる気が違うでしょう。
途中に些細なトラブルでも起きれば
5万台分の投資は間違いなくパァになるのですから。
だったらクルマ本体以外にヒューマンエラーの起きやすい
充電を安全に出来ることに注力することは当然です。
系列に電機メーカーを持つ三菱がバッテリーを古河、
インバーターとモーターを明電舎と
主要部品を系列外の外部から調達しているのに対し
日産は自社か合弁会社で賄う。
外部調達は初期投資が安く済むけれども、
数が多く出れば自社で作ったほうが単価が下がる。
本気でEVを作ろうとしているのがよくわかります。
リーフの試乗会でこれだけのことをオープンに話してくださった
インフラ担当の有光さんには深く感謝いたします。
そしてこの試乗会をセッティングしてくださったLOVECARS!にも感謝。
追記
しかし、メディアはなんでこの家庭用充電のことを
もっと詳しく書かないんだろうか?
というか書いてあったメディアってなかったでしょ。
この部分の安全性はもっとメディアが取り上げて
安全性の向上を目指すべきではないのでしょうか?